独裁者(映画)

出典: Jinkawiki

 『独裁者』または『チャップリンの独裁者』(原題:The Great Dictator)とは、1940年に公開されたアメリカ映画である。チャールズ・チャップリン監督作品。

目次

あらすじ

 1918年、第一次世界大戦の末期、トメニア軍陣地では1兵卒であるユダヤ人の床屋(チャーリー・チャップリン)が奮戦していた。トメニア軍の空軍将校シュルツ(レジナルド・ガーディシュナー)が敵に包囲されていたところを助けるなど、ユダヤ人の床屋は英雄的に戦う。シュルツを救い2人は命からがら戦闘機に乗りトメニアに逃げかえったが、その時すでに戦争に負けていたことを知る。一方床屋は、戦闘機が墜落したときに重傷を負い、記憶を完全に喪失してしまう。

 長い入院生活ののちに健忘症から回復したとき、祖国はアデノイド・ヒンケル(チャップリンの一人二役)の独裁下にあった。ゲットーに昔の自分の店を見つけた床屋は、そこで出会った孤児の少女ハンナ(ポーレット・ゴダード)と恋に落ちる。ヒンケルは自由と民主主義を否定し、ユダヤ人を迫害していた。現在の政治状況について理解していないチャーリーは、突撃隊に反抗したために絞首刑になりかけるが、偶然通りかかったシュルツと再会する。彼はヒンケルからの信頼も厚く、突撃隊長となっていた。かつて自分を救ってくれた友人がユダヤ人であったことを知ったシュルツは驚いたが、かつての恩からチャーリーとハンナに危害を加えないように部下に命じた。

 ある日、スピーカーから独裁者アデノイド・ヒンケルの声が聞こえてくる。ユダヤ人の銀行家から上納金を引き出すことに失敗し、業を煮やした総統は、貧しいユダヤ人たちに迫害の手をのばし始めた。シュルツはユダヤ人迫害に反対したため、収容所に入れられてしまう。

 ハンナとチャーリーはユダヤ人虐殺からは逃れるものの、床屋の店は焼かれてしまった。これらを受け、ハンナは隣国オストリッチへの亡命を計画する。ハンナは無事オストリッチへの亡命を成功させるが、チャーリーは収容所に入れられてしまう。

 世界制覇を夢見るヒンケルは、オストリッチへの侵略を決意する。この戦略に関して近隣国の独裁者ベンジオ・ナパローニ(ジャック・オーキー)の承認を得ようと彼を招待するが、様々な滑稽な事件が起こったあげく、2人は口論をはじめ、とうとう喧嘩になってしまう。

 一方、チャーリーとシュルツは、収容所からの脱出に成功し、ヒンケルと遭遇する。チャーリーとヒンケルの容姿が偶然似ていたため、ヒンケルが収容所に入れられ、チャーリーがヒンケルの地位に就くことになる。オストリッチ侵攻を前にヒンケルは大演説を行うことになっていた。ヒンケルの部下のガービッチ(ヘンリー・ダニエル)が演説を行い、続いてチャーリーが演説することになった。チャーリーは、ガービッチとは真逆のヒューマニズムに訴えかける演説を行う。そして、絶望によって泣き崩れるハンナに向かって、ラジオからチャーリーが語りかけるところで映画は幕を閉じる。

制作

 1938年、チャップリンは、秘密裏に「独裁者」の準備を始める。

 1939年の春、この作品のテーマが新聞に発表されると、ハリウッドの資本家たちに通じている合衆国内のドイツ外交官、およびヒトラーの組織からの政策中止の圧力がかかる。同年6月にはセットが制作され、撮影と録音のテストが始まり、9月9日から「独裁者」の撮影が開始される。(この間9月1日にヨーロッパにて第二次世界大戦が勃発する。チャップリンが映画の製作を断念したとのうわさが広まる。)

 1940年10月15日、「チャップリンの独裁者」(3420メートル、映写時間2時間6分)がニューヨークのアスターおよびキャピトル劇場で初公開。製作費200万ドル、使用ネガ20万メートル。撮影期間は127日(1940年以後、さらに修正を加える)。

 1944年夏以来、同作品はヨーロッパの自由諸国で広く上映される。

制作の背景

 1939年、ドイツのポーランド侵攻によって第二次世界大戦が勃発する。チャップリンはヨーロッパで台頭していたファシズムに危機感を抱き、映画の制作を決定した。

 撮影当時、多くのアメリカ人はヨーロッパの戦争に大きな関心を持っていなかった。ナチスが反共産主義・白人優位主義であったことから、アメリカではヒトラーを支持する人も多かった。撮影中は映画の制作中止を求める様々な妨害がチャップリンに加えられた。

 この作品は、チャップリンの初の完全トーキー作品として有名である。以前にも、「モダン・タイムス」(1939年)での即興歌にてチャップリンは声を発しているが、完全なトーキーの作品ではなかった。さらに、「独裁者」はチャップリンの作品の中で最大のヒット作となった。アカデミー主演男優賞、作品賞、脚本賞にノミネート、ニューヨーク映画批評家協会賞を受賞している。

 最後の大演説は技術的にも非常な離れ業であった。前代未聞の約六分間のシーンを、チャップリンは一人で支え続けた。

 当初の脚本では、戦争は終戦となり、日本軍は中国に爆弾の代わりにオモチャを落とし、ドイツ兵とユダヤ人が手を取ってダンスし、世界に平和が訪れる、というものであった。しかし、ナチスの快進撃が続き、このままではファシズムに対する警鐘にならないと判断したチャップリンは、ラストの脚本を大幅に変更し、ラストの大演説を入れることになった。

チャップリンとヒトラー

 チャップリンとヒトラーは、チャップリンが1989年4月16日生まれ、ヒトラーが1989年4月20日生まれであり、どちらも黒髪、小柄、トレードマークがちょび髭など、似た部分や共通点が多かった。

 ヒトラーはこの映画を首相官邸で2回(または3回)見た後、上映禁止処分にしたという。

キャスト

  • 床屋のチャーリー/独裁者ヒンケル チャールズ・チャップリン
  • ガービッチ ヘンリー・ダニエル
  • ナポローニ ジャック・オーキー
  • シュルツ レジナルド・ガーディシュナー
  • へリング ビリー・ギルバート
  • ナパロニ夫人 グレース・ヘイリー
  • バクテリア国大使 カーター・デ・ヘブン
  • ハンナ ポーレット・ゴダード
  • ジェケル夫人 エマ・ダン
  • ジェケル モーリス・モスコヴィッチ

参考文献

  • チャップリン増補版 ジョルジュ・サドゥール 鈴木力衛 清水馨 訳 岩波書店


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