男女雇用機会均等法
出典: Jinkawiki
男女雇用機会均等法の趣旨は、労働者が性別にかかわらず、雇用の分野における均等な機会を得、その意欲と能力に応じて均等な待遇を受けられるようにすること、企業の制度や方針において、労働者が性別を理由として差別を受けることをなくしていくことにある。
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変遷
○1972年(昭和47年)「勤労婦人福祉法」が施行。
これが現在の男女雇用機会均等法の前身にあたる法律とされている。
○1985年「雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等女子労働者の福祉の増進に関する法律」(男女雇用機会均等法の正式名称)として改正され、翌1986年(昭和61年)4月1日に男女雇用機会均等法が施行。
○1997年(平成9年)に改正。1999年(平成11年)4月1日に改正法が施行。この改正男女雇用機会均等法により、女性に対する差別の努力義務規定が禁止規定になり、ポジティブ・アクション、セクシュアルハラスメントにかかる規定が創設。また、母性健康管理措置が義務規定化される。
○2006年(平成18年)に改正、2007年4月1日に改正法が施行。
・性差別禁止の範囲の拡大、間接差別規定の導入
・妊娠などを理由とする不利益取扱いの禁止
・セクシュアルハラスメント対策の強化
・ポジティブ・アクションの効果的推進方策(国が事業主に対して行う援助内容の追加)
・男女雇用機会均等法の実効性の確保(調停、企業名公表制度の対象範囲の拡大、過料の創設)
現行のポイント
1.性別による差別の禁止
従前から性別による、募集・採用、配置・昇進、教育訓練、福利厚生、定年・退職・解雇についての差別の禁止に加え、今回はさらに降格、職種・雇用形態の変更、退職勧奨、雇止めにおける差別も禁止の対象に追加された。
(1)雇用管理の各ステージにおける性別を理由とする差別の禁止(第5条・6条)
事業主が労働者に対し、募集・採用、配置・昇進・降格・教育訓練、福利厚生、職種・雇用形態の変更、退職の勧奨・定年・解雇・労働契約の更新において、性別を理由に差別的な取扱いをすることが禁止されている。
福利厚生の措置の具体的な範囲は厚生労働省令で定められている次の4つである。
①生活賃金、教育資金その他労働者の福祉の増進のために行われる資金の貸付け
②労働者の福祉の増進のために定期的に行われる金銭の給付
③労働者の資産形成のために行われる金銭の給付
④住宅の貸与
(2)間接差別の禁止(第7条)
間接差別とは、外見上は性による差別と認められなくても、実質的には、合理的な理由もなく、一方の性にとって相当程度の不利益を与える措置のことをいう。 厚生労働省令で定める以下の3つの措置については、合理的な理由がない場合間接差別として禁止される。(施行規則2条)
①募集・採用にあたり一定の身長・体重・体力を要件とすること
②コース別雇用管理制度における総合職の募集・採用にあたり、転居を伴う転勤を要件とすること
③昇進にあたり転勤経験を要件とすること
ただし、業務上の必要など合理性がある場合は除かれる。
(3)女性労働者に係る措置に関する特例(第8条)
事業主が、職場に事実上生じている男女間の格差を是正することによって男女の均等な機会・待遇を実質的に確保するために、女性のみを対象とする又は女性を有利に取り扱う措置は、法違反にはならない。
2.妊娠・出産等を理由とする不利益取扱いの禁止(第9条)
妊娠・出産・産前産後休業の取得を理由とする解雇だけでなく、省令で定める理由で退職勧奨、雇止め、パート等への変更などの不利益取扱いも禁止される。
また、妊娠中や産後1年以内に解雇された場合、解雇の理由が省令で定められた理由に該当しないことを事業主が証明しない限り、その解雇は無効となる。
≪厚生労働省で定める事由≫
①妊娠したこと
②出産したこと
③母性健康管理措置を求め、又は受けたこと
④坑内業務・危険有害業務に就けないこと、これらの業務に就かないことの申し出をしたこと、又はこれらの業務に就かなかったこと
⑤産前休業を請求したこと又は産前休業したこと、産後に就業出来ないこと、又は産後休業したこと
⑥軽易業務への転換を請求し、又は転換したこと
⑦時間外等に就業しないことを請求し、又は時間外等に就業しなかったこと
⑧育児時間の請求をし、又は取得したこと
⑨妊娠又は出産に起因する症状により労働できないこと、労働できなかったこと、又は能率が低下したこと
≪禁止される不利益取扱いの例≫
・解雇すること
・期間を定めて雇用されるものについて、契約の更新をしないこと
・あらかじめ契約の更新回数の上限が明示されている場合に、当該回数を引き下げること
・退職の強要や正社員からパートタイム労働者等への労働契約内容の変更の教養を行うこと
・降格させること
・就業環境を害すること
・不利益な自宅待機を命ずること
・減給し、又は賞与などにおいて不利益な算定を行うこと
・昇進・昇格の人事考課において不利益な評価を行うこと
・不利益な配置の変更を行うこと
・派遣労働者として就業する者について、派遣先が当該派遣労働者に係る労働者派遣の役務の提供を拒むこと
3.セクシュアルハラスメント対策(第11条)
これまでセクシュアルハラスメントについて事業主に課せられていたのは、単なる配慮義務であったが、男性に対するセクシュアルハラスメント対策を含め、雇用管理上必要な措置を講じることが事業主に課され、事業主が必要な措置を講ぜず、是正勧告にも応じない場合は、その企業名が公表される。
≪雇用管理上講ずべき措置の内容≫
①セクシュアルハラスメントの内容及びセクシュアルハラスメントがあってはならない旨の方針を明確化し、管理・監督者を含む労働者に周知・啓発すること。
②行為者については、厳正に対処する旨の方針及び対処の内容を就業規則その他の職場における服務規律等を定めた文書に規定し、管理・監督者を含む労働者に周知・啓発すること。
③相談窓口をあらかじめ定めること。
④相談窓口担当者が、内容や状況に応じ適切に対応できるようにすること。また、現実に生じている場合だけでなく、その発生のおそれがある場合や、セクシュアルハラスメントに該当するか否か微妙な場合であっても、広く相談に対応し、適切な対応を行うようにすること。
⑤相談の申出があった場合、事実関係を迅速かつ正確に確認すること。
⑥事実確認ができた場合は、行為者及び被害者に対する措置をそれぞれ適正に行うこと。
⑦再発防止に向けた措置を講ずること。事実関係が確認できなかった場合も同様の措置を講じること。
⑧相談者・行為者等のプライバシーを保護するために必要な措置を講じ、労働者に周知すること。
⑨相談したこと、事実関係の確認に協力したこと等を理由として、不利益な取り扱いを行ってはならない旨を定め、労働者に周知・啓発すること。
4.女性健康管理措置(第12・13条)
事業主は、妊娠中・出産後の女性労働者が保健指導・健康診査を受けるために必要な時間を確保し、医師等による指導事項を守ることができるようにするための必要な措置を講じなければならない。 事業主が措置を講ぜず、是正勧告にも応じない場合、企業名が公表され事業主と労働者の紛争において個別紛争解決援助が利用できるようになった。
○事業主は、女性労働者が妊産婦のための保健指導又は健康診査を受診するために必要な時間を確保することができるようにしなければならない。
〔確保しなければならない回数〕
・妊娠中
妊娠23 週まで 4週間に1回
妊娠24 週から35 週まで 2週間に1回
妊娠36 週以後出産まで 1週間に1回
・産後(出産後1年以内)
医師等が健康診査等を受けることを指示したときは、その指示するところにより、必要な時間を確保することができるようにしなければならない。
○妊娠中及び出産後の女性労働者が、健康診査等を受け、医師等から指導を受けた場合、その指導を守ることができるようにするために、事業主は、勤務時間の変更や勤務の軽減等の措置を講じなければならない。
〔事業主が講じなければならない措置〕
・妊娠中の通勤緩和(時差出勤、勤務時間の短縮、交通手段・通勤経路の変更 等)
・妊娠中の休憩に関する措置(休憩時間の延長、回数の増加、休憩時間帯の変更 等)
・妊娠中又は出産後の症状等に対応する措置(作業の制限、勤務時間の短縮、休業 等)
5.ポジティブ・アクションに対する国の援助(第14条)
ポジティブ・アクションとは、例えば男性は基幹的業務、女性は補助的業務といった固定的な性別役割分担意識や過去の経緯などから、男女労働者の間に事実上生じている差がある時に、この差別を解消するために企業が行う、積極的な取り組みのことをいう。
厚生労働省では、各地において経営者団体等と連携を図りながら、ポジティブ・アクションの重要性、手法についての事業主の理解を深めるよう周知を図るとともに、企業のポジティブ・アクションの具体的取組を援助するため、事業を実施している。
①経営者団体と連携して「女性の活躍推進協議会」を開催。
②「均等・両立推進企業表彰」を公募により実施。
③事業所から選任された機会均等推進責任者あてメールマガジンによる情報提供を実施。
④「ポジティブ・アクション応援サイト」により、企業のポジティブ・アクションの取組状況を紹介。
⑤人事労務担当者を対象としたポジティブ・アクションの具体的取組を進めるためのセミナーを開催。
⑥企業が他社と比較した自社の女性の活躍状況やポジティブ・アクションの進捗状況を測るものさしとなる値(ベンチマーク)を構築し、目標設定をしやすく するための事業(ベンチマーク事業)や、ベンチマークに基づき、中小企業を対象にポジティブ・アクションの取組についての助言、援助を行う「中小企業女性の能力発揮診断事業」を実施。
今後の課題
1.間接差別の禁止
改正によって間接差別に関する規定が新たに作られたが、均等法で定めるものに限定されており、これまで裁判などで「間接差別」として問題とされたものは省令に含まれていない。こうした、省令からは外れるが現に存在する間接差別をどうすれば無くしていくことができるが課題である。
2.ポジティブ・アクション
厚生労働省の調査によるとポジティブ・アクションに取り組んでいる企業はいまだ30%程度にすぎない。こうした取り組みを促進させるには、法律でポジティブ・アクションを企業に義務付けることが必要なのではないだろうか。
3.賃金に関する性差別禁止
男女賃金差別は、職場での男女差別の典型的なものの1つである。しかし、均等法には賃金に関する性差別禁止の規定がない。労働基準法に「男女同一(価値)労働・同一賃金」の規定があるので、重複した規定は必要ないとされている。
しかし、賃金差別は昇進や配置の問題と関連していることが多いため、男女差別の問題としてこうした昇進や配置と合わせて、均等法で取り扱うほうが便宜的なことが多い。したがって、均等法にも賃金に関する差別的取扱いの禁止を盛り込むべきではないか。
参考
http://www-bm.mhlw.go.jp/general/seido/koyou/danjokintou/dl/aramashi-11.pdf
http://www-bm.mhlw.go.jp/general/seido/koyou/danjokintou/dl/aramashi02.pdf(厚生労働省 HP)
http://www.roudoukyoku.go.jp/seido/kintou/index.html (厚生労働省 東京労働局HP)
『こう変わる! 男女雇用機会均等法 Q&A』 日本弁護士連合会編 岩波ブックレット
『改正男女雇用機会均等法の解説』 労働省女性局編 財団法人21世紀職業財団発行