発達障害者支援法

出典: Jinkawiki

 発達障害者支援法とは、従来、障害として認定されていなかった自閉症、アスペルガー症候群などの広汎性発達障害、学習障害(以下LD)、注意欠陥多動性障害(以下ADHD)などを法律上も障害と認定し、発現後できるだけ早期に必要な支援を行うことを目的として、平成17年4月1日に施行されたものである。


発達障害者支援法ができるまで

発達障害児者の抱えてきた課題

 発達障害者支援法成立以前、従来の発達障害の概念だけでは、十分に対応できない人々の存在が話題になってきていた。そのような社会状況の中で、これらの人々を‘軽度の発達障害’とする概念が提唱され始めた。この中には、高機能広汎性発達障害、LD、ADHDなどが代表例としてあげられる。これまでの支援は、知的基準を目安としていたため、知的障害がほとんどないこれらの人々は支援の対象外にあった。発達障害者支援法が成立した背景には、支援の対象からは外されていた、これらの人々への支援の取り組みがあった。

 「盲・聾・肢体不自由・知的障害」とは異なり、発達障害はその障害の特性や様相が「一般の常識的視点」からは理解しづらい障害である。窪島(2000)は、一切の個体差を「個性」の名によって一括してしまう「個性の教育学」という日本の教育文化が、個々の子どもに対する特別な教育的配慮を否定してきたと論じている。そして、自閉症やアスペルガー障害がもたらす社会的状況の理解困難による行動の逸脱を「わがままで自分勝手」、LDによる学業遂行困難を「怠学」、ADHDによる衝動コントロール困難を「我慢不足」というように、発達障害とはこの「個性の教育学」の最大の犠牲者であるといわれていた。

  文部科学省の全国実態調査

 自閉症・発達障害の子をもつ親たちにとっては、知的障害を認めてもらえない高機能自閉症やアスペルガー症候群の存在は常識化していた。そのような状況の中、2004年の4月に、発達障害への支援の必要性を政府・与党が認めたという最初の報道が流れた。政府が重い腰を上げた背景には、文部科学省が2002年に実施した実態調査の効果だと考えられる。この日本初の全国的調査によって、知的発達に遅れはないものの学習面や行動面で著しい困難を示すと担任教師が回答した自動生徒の割合は、

学習面か行動面で著しい困難を示す…6.3%

学習面で著しい困難を示す…4.5%

行動面で著しい困難を示す…1.2%

を示し、学習面や行動面の各領域で著しい困難を示す割合は、

「聞く」「話す」「書く」「計算する」「推論する」に著しい困難を示す…4.5%

「不注意」又は「多動性-衝動性」の問題を著しく示す…2.5%

「対人関係やこだわり等」の問題を著しく示す…0.8%

という結果になった。これにより、これまで親や教育の現場から訴えられていた困難さが、初めて公式な調査による数字で把握されたのである。この数字により、「発達障害に対する総合施策の必要性」が説得力をもってきたのである。


 

発達障害者支援法で定められたこと

新たな障害について

 発達障害者支援法における「発達障害」とは、「自閉症、アスペルガー症候群その他の広汎性発達障害、学習障害、注意欠陥多動性障害その他これに類する脳機能の障害であってその症状が通常低年齢において発現するものとして政令で定めるもの」(法第2条第1項)とされている。

 わが国において「発達障害」という用語が行政施策の中で使われたのは、平成14年の「自閉症・発達障害支援センター運営事業」からである。当該事業は、知的障害を伴わない自閉症(高機能自閉症)やアスペルガー症候群等も含めた広汎性発達障害についての対応の課題がクローズアップされた。その後、平成16年5月、改正された「障害者基本法」においては、「障害者とは、身体障害、知的障害又は精神障害があるため、長期にわたり日常生活又は社会生活に相当な制限を受けるもの」とされ、参議院付帯決議では、「てんかん及び自閉症その他の発達障害を有する者並びに難病に起因する身体又は精神上の障害を有する者であって、継続的に生活上の支障があるものは、この法律の障害者の範囲に含まれるものである」とされている。「発達障害」という言葉は、法律、施策、学問などさまざまな文脈で使用されてしるが、あくまで「発達障害」はこの法律上の障害の範囲であって、この法律が目指した従来の法律や施策では正面から取り組まれてこなかった対象を意味している。例えば知的障害者についてはすでに知的障害者福祉法(1960)で、肢体不自由(脳性まひ)については身体障害者福祉法(1949)で対応されているところであり、発達障害者支援法は、まさにそのような既存の法律や施策の対象にならない障害に対応しようとするものである。

教育について

 発達障害者支援法の特に教育に関わる記述については、「定義」(第2条)、「国及び地方公共団体の責務」(第3条)、「早期の発達支援」(第6条)、「教育」(第8条)、「就労の支援」(第10条)、「発達障害者支援センター」(第14条)、「民間団体への支援」(第20条)、「国民に対する普及及び啓発」(第21条)「専門的知識を有する人材の確保等」(第23条)「調査研究」(第24条)がある。

 その中でも第8条の「教育」では、国及び地方公共団体は、発達障害のある児童生徒が、その生涯の状態に応じ、十分な教育を受けられるようにするため、適切な教育的支援、支援体制の整備その他必要な措置を講じること、及び、大学及び高等専門学校は、発達障害者の障害の状態に応じ、適切な教育上の配慮をするもの、と示されている。

 そのような体制整備のためのガイドライン(「小・中学校におけるLD(学習障害)、ADHD(注意欠陥多動性障害)、高機能自閉症の児童生徒への教育支援体制の整備のためのガイドライン(試案)」)を平成16年1月に作成し、全小・中学校に配布した。このガイドラインは、①概論(導入編)、②教育行政担当者用、③学校用、④専門家用、⑤保護者、本人用、の5部構成になっている。

具体的取り組み

  早期発見の必要性 

 発達障害者支援法では、高機能広汎性発達障害児、LD児、ADHD児に関して、市町村がその早期発見に努めることとなっているし、都道府県は人材養成などにより体制整備を行うよう定めている。早期発見が重要な理由は就学後に学校不適応や心身症の状態に陥る割合が、少数ではないことが判明してきたからである。

 たとえば厚生労働科学研究によって行われた心身症等に関する全国調査がある。この調査によれば小児科医が心身症を合併していると診断したのはLD児で68.4%、ADHD児では57.7%であった。また、家族・友人・教師と何らかの対人関係上のトラブルを有していたのはLD児で73.7%、ADHD児では67.3%であった。こうした割合は小学校よりも中学校で多くなっており、学年の進行とともに顕著になっている。

 このようにLDやADHD等の発達障害では、学年が進むにつれて集団不適応や二次的な心因反応を起こして小児科を受診することが少なくないことが明らかとなった。本来は行動上の問題や学業上の困難が主たる問題点であるはずが、むしろ二次的な適応困難の方が重大であり、医療と教育の両分野にまたがる大きな今日的問題となっている。

 こうした二次的不適応を予防することが、一つの大きな課題であると認識されるようになり、そのための方略として早期発見が重要であるとの認識に至ったのである。

学校教育での支援 

 これまで、発達障害の子どもたちが、自身の持つ障害特性を配慮した指導を受けていられなかったことを考えると、発達障害者支援法によって彼らの生涯が認められ、特別支援教育によって適切な教育が保障されるようになったことは待ち望まれたことである。そして、学校の教員が発達障害についての正しい知識を持つことは、その地域の一般的な啓発にもつながる。クラスのこどもたちが、発達障害児の特性を捉えて、いじめるという悲惨なことを繰り返すことのないよう、十分な配慮が必要である。

 そのために取り組んでいくべきことは①教員の研修、②校長など校内の管理職、教育委員会などの管理職の研修・正しい知識を持つこと、③通級指導教室ないしは特別支援教育の設置、④達成度別クラスなどを利用した必要な教育的配慮、達成度に適した教材の活用、⑤発達障害児の存在を前提とした学校づくり、などがあげられる。


参考文献

ぼくらの発達障害者支援法 カイパパ 編著

発達障害者支援法ガイドブック 発達障害者支援法ガイドブック編集委員会 編著

よくわかる特別支援教育 時事通信社出版局 編

参考URL

文部科学省:「通常の学級に在籍する特別な教育的支援を必要とする児童生徒に関する全国実態調査」調査結果

http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/shotou/018/toushin/030301i.htm


 


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