重度・重複障害

出典: Jinkawiki


目次

重度・重複障害とは

 文部省「特殊教育の改善に関する調査研究会議」が1975年3月31日に答申した「重度・重複障害児に関する学校教育の在り方について」には重度・重複障害児についての規定がある。それによると、重度・重複障害児とは、


①学校教育法施行令第22条の3に規定する障害(盲、聾、知的障害、肢体不自由、病弱)を二つ以上併せ持つ者

②発達的側面からみて精神発達の遅れが著しく、ほとんど言語を持たず、自他の意思の交換および環境への適応が著しく困難であって、日常生活において常時介護を必要とする程度の者

③行動的側面からみて、破壊的行動、多動傾向、異常な習慣、自傷行為、自閉症、その他の問題行動が著しく、常時介護を必要とする程度の者


となっている。しかし、法令等で使用されているのは「重複障害」という用語でる。「盲学校、聾学校及び聾学校養護学校」の学習指導要領においては、「当該学校に就学することとなった心身の障害以外に他の心身の障害を併せ有する」場合を「重複障害」としている。「当該学校に就学することとなった心身の障害」とは、学校教育法施行令第22条の3に規定する5障害を指す。ここでいう「他の心身の5障害とは、学校教育法施行令第22条の3に規定する障害に必ずしも限定されていないことから、広く解釈されている。従って、上記①は重複障害の一部に相当する。しかしいずれにせよ2つ以上の障害の重複だけを述べているので、重度という観点は含まれていない。②は重度の知的障害、③は強度の行動障害に相当する内容である。


重度・重複障害の原因

 重度・重複障害児の発生率は、出生前(胎生期)で新生児1,000人に対して0.6人前後、出生時(周生期)から新生児にかけては0.4人前後で、両者の合計から出生1,000人に対して新生児期(生後4週)までに1人前後であると推定される。

 2000(平成12)年4月1日現在における全国の公法人立重症心身障害児施設(重症児施設)の入所者8、648人の障害の原因の発生時期は、出生前28.86%、出生期・新生児期35.95%、周生期以後30.91%、不明4.28%である。主な障害の原因としては、低酸素症または仮死がもっとも多く1,548人、次いで不明の出生前原因1,006人、髄膜炎・脳炎881人、低出生体重児523人、てんかん499人、原因不明で時期を特定できないもの370人、原発性小頭症または狭頭症264人などがあげられる。

 今日、新生児医療の進歩により救命率は上昇しているが、重症心身障害児は増加傾向にある。この要因として、超低出生体重児と脳室周囲白質軟化症の増加などがあげられる。


重度・重複障害児の特性

①生理調節機能について

呼吸機能:呼吸のリズムが保てず、呼吸数が増減したり、睡眠時に一時的に呼吸が停止したりするなど、生命の危険な状態に陥りやすい。

体温調節機能:体温調節中枢の発達が未熟で、発汗機能が十分に働かないことから、外気温・湿度の影響を受けやすく発熱しやすい。なかには、平熱が33~35度といった低体温の者もみられる。

睡眠、覚醒機能:呼吸障害やてんかん発作などにより、睡眠━覚醒リズムが不規則になりやすく、昼間の睡眠、夜の覚醒など昼夜が逆転したり、寝つきが悪いなどの睡眠障害を伴いやすい。

②身体発育について

 低身長、低体重が多くみられ、身体はきわめて虚弱である。これは先天的な異常のほか、未熟児や栄養摂取の不足などによる。また、骨は細く骨折しやすい。骨折は身体諸機能の低下をきたす。

③運動機能について

 脳性まひを基礎疾患にもつ者が多く、骨格筋の過緊張、低緊張や不随意運動がみられ、姿勢、運動の発達が未熟である。加齢とともに異常な姿勢や運動は固定化し、側弯拘縮を併せもつ物が多い。

④コミュニケーション機能について  言語の理解や発語、身振り・手振りなどで自分の意思欲求を表すことが難しく、まわりの人とのコミュニケーションをとりにくい。また、聴覚障害や睡眠障害、行動障害を併せもつと、さらにコミュニケーションを図りにくくなる。

⑤行動障害について

 重度の発達障害に起因する多動、排徊、異食、反芻、嘔吐、自傷、共同行動などの自己刺激行動といった異常習慣、周期的な気分変動やこだわり、ひきこもりなどもみられる。強度の行動障害は自らの健康を保持したり、家庭・社会生活を送る上で大きな妨げになりやすい。


重度・重複障害児に対する学校教育

 重度・重複障害児に対する学校教育の基本的な考え方は、昭和50年3月の特殊教育の改善に関する調査研究会の「重度・重複障害児に対する学校教育の在り方について」の報告の「Ⅰ 重度・重複障害児に対する基本的な考え方」にみることができる。ここでは、「心身障害時に対する教育は、「その者の障害がいかに重度であり重複している場合であろうとも、もとより、教育基本法に掲げる目的の達しを目指して行われるべきものであって、そのために不断の努力をがはらわれなければならない。…要は、重度・重複障害児といっても、その実態はさまざまであることをかんがみ、現実の教育にあたっては、これを画一的に考えることなく、まず個々の者の心身の状況を出発点としてこれに対応した教育を行うことが必要なのである。」と述べている。

 つまり、従来の学校教育では、児童生徒の生活年齢に即した一般的な発達段階を前提として、人類の文化的遺産である知識や技能の体系を主として学年別に系統的・段階的に配列された各教科等の内容を中心に指導するものである。これに対して、重複障害児に対する学校教育では、一人一人の児童生徒の障害や発達段階に応じて、各教科等の内容ばかりでなく、個々の児童生徒に必要な指導内容を適宜取り入れて行うものである。言い換えれば、既成の教科等の内容を重複障害児に対する教育の出発点とするのではなく、一人一人の児童生徒に必要な内容を教育の出発点とした点に大きな特色があるといえよう。


参考文献

重複障害児の指導ハンドブック 責任編集 西川公司 全国心身障害児福祉財団

特別支援学校における重度・重複障害児の教育 姉崎弘 著 大学教育出版

特別支援教育の基礎知識 橋本創一 霜田浩信 林安紀子 池田一成 小林巌 大伴潔 菅野敦 編著 明治図書


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