難民3

出典: Jinkawiki


目次

難民とは

 日本語の定義では、戦争や天災などが原因で生活が困難に陥った人民。また、人種・宗教・政治的意見の相違が理由で迫害を受ける恐れがあるために生活していた国を逃れた人々のことを言う。亡命者と同義でもあるが、比較的まとまった集団をいうことが多い。このように、日本語の難民には二つの意味が含まれていることが分かる。一つは戦禍、天災、迫害などの何らかの理由で生活に大きな困難を抱えている人々。二つ目は生活が困難であり、それを回避するために越境や移動を余儀なくされた人々である。  しかし、1951年国連の難民条約第1条A(2)で示され、1967年の難民議定書で修正された定義は次のようである。『人種、宗教、国籍若しくは特定の社会的集団の構成員であること又は政治的意見を理由に迫害を受けるおそれがあるという十分に理由のある恐怖を有するために、国籍国の外にいる者であって、その国籍国の保護を受けることができないもの又はそのような恐怖を有するためにその国籍国の保護を受けることを望まないもの』及び『常居所を有していた国の外にいる無国籍者であって、当該常居所を有していた国に帰ることができないもの又はそのような恐怖を有するために当該常居所を有していた国に帰ることを望まないもの』日本語の広義とは対称的に著しく狭く定義している。


難民の現状

 UNHCR(国連難民高等弁務官事務所)の発表では2014年末までに、世界中で5,950万人が、内戦や治安悪化などが原因となり生活が困難になったことによって難民や国内避難民として故郷を追われる状況に置かれている。そのうちの1,950万人は、母国から他国に逃れている「難民」、また約3,820万人は自国にとどまり避難生活を送っている「国内避難民」、そして180万人は「庇護希望者」である。2014年末に最も難民の数が多かった国はシリアである。ソ連軍によるアフガニスタン侵攻が原因で、アフガニスタンがそれまでは難民の数が最多であったが、シリア内戦やイスラム国の台頭に伴い難民が増加した。続いて、ソマリア、スーダン、南スーダン、コンゴ共和国、ミャンマー、中央アフリカ、イラク、エリトリアという国々が難民を多く出している。それらの難民が最も逃れていく国はトルコである。中東諸国で起こった民主化要求運動による内戦で生じたシリア難民が逃れていくためである。そして、パキスタン、イラン、エチオピアと続く。このように難民は近隣の国に逃げるという状況にあるのだが、世界の5分の4以上の難民を開発途上国が受け入れている。すなわち、途上国が発展していない状況に加えて難民を多く受け入れなければならないという課題があるのが現状である。


国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)と難民

 1951年に創立された、国際連合における人道支援の組織である。活動方針は難民条約を基盤としている。世界が国境を越えて人道的な活動を始めるのは、国家間の戦争が当事国だけでは解決できなくなった第一世界大戦が契機となっている。支援活動は、1921年にロシア難民高等弁務官事務所としてスイスのジュネーブで開始された。その活動の多くは私財によるものであり、個人の尽力が大きく現在の難民事務所の基盤となっている。その後も変遷は続き、第二次世界大戦後ドイツの東西分離や朝鮮戦争により、国際機関からも新たな難民機関の創設が求められ、国連総会の補助機関として国連難民高等弁務官事務所が創設された。  UNHCRの任務と権限は、難民に国際的保護を与えることと、難民問題に解決をもたらすことである。解決策として「自主帰還」「庇護国への定住」「庇護国から第3国への定住」を挙げているが、実際に難民を保護して援助するのは庇護国を含む国連加盟国あり、責任も各政府にある。よって、UNHCR創設は国際社会全体で難民問題に取り組む利点がある一方、各政府との間で緊張関係が生じるといった政治的問題も課題となっている。  2011年にUNHCRは60周年を迎えたが、難民はまだまだ増加しているのが現状である。しかしUNHCRの様々な活動は、国際社会において大きな役割を果たしているといえるだろう。日本も資金や物資による貢献にとどまらず、士気も高く才能あふれる人材による貢献も多くの難民、庇護申請者、国内避難民、無国籍者などを支えている。


EUの難民への対応

 EUは難民にとって最も魅力的な場であるため、実際2013年にEU 28カ国に国際的保護を求めて庇護申請した人々は、43万5,760人となり、前年よりも30%増加した。これらの難民申請した難民の90%が上位10か国で受け入れられている。国別でみてみると1位がドイツ(12万6,705人)、2位がフランス(6万6,265人)続いてスウェーデン、英国、イタリアの順となっている。認定率は加盟国によって大きく異なっている。88%を認めたブルガリア、マルタ84%から、ギリシャ4%、ハンガリー8%、エストニア9%のように1桁の国もあるのが現状である。また認定を受けられなかった経済的理由の難民は自発的な帰国を推進している。なぜなら、EU加盟国はノン・ルフールマン(強制送還禁止)原則を認めているためである。そこで、EUは帰還基金も用意して対応している。  EUは、難民発生を食い止めるために外務・安全保障政策上級代表の下、欧州対外行動庁(EEAS)が紛争解決を目指し、欧州委員会の国際協力・開発総局を中心に、貧困救済のため開発援助を推進している。また、人道援助市民保護総局により、紛争国の周辺国に技術支援を行い、緊急支援調整プログラムよる物資・要員の調達・運搬、輸送機の調整なども行っている。特に例をあげると、近年は地中海上での警護能力を3倍に引き上げ、地中海に流れ着いた12万人以上の難民を救助している。また、2014年から2020年の多年次予算として移民と国境管理のため計上されていた70億ユーロに追加して約7,000万ユーロを加盟国支援した。シリア周辺の難民とその庇護国に、人道上、開発上、経済上の安定化を支援する目的で40億ユーロ、またアフリカ大陸での移民・難民が生じる根本的要因に対処する目的で18億ユーロなど、EU加盟国間以外にも予算を充てている。  EUは今後の難民に対する取り組みを次のようにあげている。イタリア、ギリシャにいる難民を他の加盟国へ迅速に移送するため、欧州庇護支援事務所などの専門職員による難民管理センター「ホットスポット」を整備し、難民の身元確認、審査、指紋登録を集中的に行う。加えて、EUへの難民数を軽減するために、他の加盟国に対しても協力関係を強化する必要がある。


日本と難民問題の歴史

 日本が初めて難民へ対応したのは、1975年にインドシナ難民から救いを求められた時であった。そして日本が対応を求められているのは次の2つである。 1つ目は、ボート・ピープルへの第1庇護である。難民2人がパキスタン船で日本の港に来たのが始まりとなり、以後日本船が救助した難民に上陸特別許可と水難上陸許可を与えていた。そして、1977年からは船籍に関係なく上陸特別許可を与えたが、難民を第3の国に送る準備期間としていたので、日本に難民を定住させることを促進する内容ではなかった。つまり、実際日本は救助した船舶からの連絡を受けてUNHCR駐日事務所がアメリカなどに難民の受け入れを求め、準備をした上で送り出すといったことを繰り返していたのである。日本がボート・ピープルに定住を許可したのは、1978年である。以後受け入れる人数は増加していく。2つ目は、難民の定住許可と定住難民への援護である。日本はボート・ピープルとして来航した場合を除き、障害をもつ難民を一切受け入れていない。また、海外に比べてボート・ピープルを積極的に救出せず、外国船が救出した難民はその国へ定住するようにと逃げ腰である。  このように、日本の難民受け入れの面では少ないと言わざるを得ないが、難民流出により困惑している周辺諸国やUNHCRへの資金援助と経済援助の面では高い評価を得ている。ここで問題となるのは、お金は出すが受け入れることはしないという対応である。経済大国を自負しながら、難民政策には消極的であり外圧に押されてやむなく受け入れたというのが日本の人道問題に対する姿勢であった。


現在の日本の難民への対応

 日本は1981年に難民条約に加入し、翌年には難民認定制度を開始した。申請数はアジアを中心に近年増加している。日本政府に対し難民認定の申請を行った外国人が、日本が難民を受け入れて以来最も多かったのは2014年で5000人である。しかし、政府が難民と認定したのは、たった11人であった。経済大国であるにもかかわらず難民認定率はわずか0.2%と先進国の中で最低水準なのである。2013年の外国と比較すると、米国2万1171人、ドイツ1万915人、フランス9099人、韓国でも57人となっている。国際社会は日本に、先進国として適当な負担を求めているのである。そんな中、日本は2011年に、衆参両院が難民保護と難民問題の解決策に向けた継続的な取り組みに関する決議を採択、2014年末には難民政策見直し案をまとめるなど難民問題への取り組みを強めている。また、日本はこれまでに1度だけ大量の難民を受け入れた。それは、1970年代に発生したインドシナ難民である。ベトナム、ラオス、カンボジアで起こった戦争から逃れるため、大量の難民が周辺国に逃がれた。日本は11,319人をインドシナ難民として受け入れたのである。  これまでの難民受け入れの経験を振り返り、その教訓を活かしたうえで、難民認定者や第3国定住で日本に来た人々に対し、適切な言語教育、生活支援を実施していく必要がある。



参考文献

http://www.aarjapan.gr.jp/activity/emergency/refugee.html 世界の難民と日本の難民支援(2016/7/27閲覧) http://www.unhcr.or.jp/html/index.html UNHCRJapan(2016/7/27閲覧) http://eumag.jp/question/f0115/ EU難民対策とシリア難民への対応とは?(2016/7/27閲覧) http://eumag.jp/behind/d1015/ 欧州難民危機-急増するシリア難民への対応(2016/7/27閲覧) http://www.nippon.com/ja/features/h00107/ 日本の難民政策:受け入れは「狭き門」(2016/7/27閲覧) 市野川容孝・小森陽一(2007)『難民』岩波書店 吹浦忠正(1989)『難民―世界と日本』日本教育新聞社 大西愛(2014)『アーカイブ・ボランティア―国内の被災地で、そして海外の難民資料を』大阪大学出版会


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