ALS3

出典: Jinkawiki

ALS(Amyotrophic Lateral Sclerosis)=筋委縮性側索硬化症

体を動かすことを司る運動の神経が侵される運動ニューロン病の一種で、徐々に全身が動かなくなる疾患。今のところ根治は難しいうえに神経難病としては進行がはやく、呼吸が弱くなって人工呼吸器を使用しなければ死に至るため、難病中の難病といわれる。


目次

概要

有病率は、人口10万人に約2~7人、全国で4000人以上はいるのではないかと推定される。主として40代以降に多く発症し、男性がやや多いと言われている。最近では70代も増えており、高齢化率以上に高齢発症が増加している。原因も治療法も明らかではない難病として、厚生省の「特定疾患」に指定され、医療費は公費負担される。

歴史

120年以上も前に“臨床神経学”の父と言われたフランスのシャルコーによって、ALSの特徴がはじめて明らかにされた。日本では紀伊半島南部、特に牟婁地方に多発し、明治の初期から「牟婁病」と呼ばれていた。アメリカでは、偉大な野球選手のルー・ゲーリックが罹患したことから「ルー・ゲーリック病」とも呼ばれる。また、宇宙物理学で有名なイギリスの科学者ホーキング博士は30年来の闘病者である。

病状

進行の様式は個人によって異なるが、手の筋力低下(ペットボトルが開けられない、箸がうまく使えないなど)、筋肉のやせで発症し、徐々に肩に向かって、また反対側の上肢にも力が入りにくくなる。さらに進行すると下肢にもおよび、つまずきやすくなったり、立ち上がれなくなり、寝たきりとなる。筋力低下が口や喉の筋肉におよぶと、ろれつがまわらなくなり、むせやすくなるため、次第に言語でのコミュニケーションが困難となり、経管栄養が適応となる。進行期には呼吸筋障害をきたし、呼吸不全や感染症が死因となる。眼球運動は比較的末期まで保たれ、自分の意志で動かす随意運動以外の感覚や小脳機能、自律神経、知能などは通常障害されないが、遺伝性の症例など例外はある。さらに気管切開人工呼吸器を装着し病期が長くなると外眼筋麻痺および運動以外の障害も生じ、完全にコミュニケーションがとれない状態になる。 生命予後は気管切開人工呼吸器を用いなければ平均約2~4年で死亡するが、非侵襲的人工呼吸器など様々な対処療法を用いることによって軽度ながら予後を改善しうる。また、ALSは初発症状や進行のスピードも非常にばらつきが大きく、平均的な予後があてはまらないことも多いため、個々の症例に合わせた捉え方が必要である。根治療法は難しいが、適切な時期に対症療法を十分にすることでQOLは大きく異なってくるので、病状の見通しをたて、各問題に早めに対処する。


原因

特定はできないが、古くから遺伝子説(約10%は遺伝性)、ウイルス感染説、ミネラル不足説、金属暴露説等が言われ、最近では自己免疫疾患説、興奮性アミノ酸異常説、神経栄養因子欠乏説等の研究が進められているが、仮設の段階である。また単一原因ではなく、先天的な罹病素因にストレス、栄養、感染、中毒、外傷、加齢、物理的なものなど環境要因がからむ多因子性ではないかといわれている。 診断は除外診断で、初発症状から診断まで半年~1年かかる症例が多い。現在のところ確実な診断マーカーはなく、誤診もありえるので、経過が腑に落ちないときには再考が必要である。


米国の医療保険

医療費が高騰する中で、治療の場が病院から自宅に移っている。ALSの患者が自宅で療養する場合、日本なら障害者支援システムによる介護保険サービスが受けられるが、米国では公的健康保険は適用されない。よって在宅療養に関する保険制度、経済的サポートシステムは米国よりも日本のほうが整備されている。


参考文献

①テキスト臨床死生学

②生命のコミュニケーション


  人間科学大事典

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