HTP
出典: Jinkawiki
J.N.バックが1948年に開発した「HTPテスト(House-Tree-Person Test, 家屋‐樹木‐人物画法テスト)」は投影法の人格検査である。HTPテストの標準的な実施法では「家→樹木→人物」の順番で被検者に描かせ、その後に「被検者の描いた絵」を元にして質問や会話をして「被検者の言語表現・自由連想」を引き出していくことになる。投影法の一つである描画は飽くまで非言語的なコミュニケーション手段に過ぎないので、絵を描き終わった後には被検者の口から絵についての説明や感想、絵に込められた感情や欲求、不安などを共感的に聴取していかなければならない。HTPテストでは絵に対する質問項目を60項目にまとめていて、その質問項目のことを「PDI(Post Drawing Interrogation)」と呼ぶ。バックは鉛筆でHTPテストの絵画を描かせて、PDIを用いた質問をして被検者の意見や感想を聞いた後に、もう一度カラフルな8色以上のクレヨンを使って「家・樹木・人物」の絵を描かせるようにしていた。8色以上のクレヨンを用いて絵を描いた後にも、もう一度PDIを用いて人格検査の参考になる質問をしていくのである。 描画法の人格検査(パーソナリティ・テスト)には、HTP以外にも中井久夫が1969年に開発した箱庭療法をヒントにした「風景構成法」やW.C.ハルスが1952年に考案した「家族画法」、R.C.バーンズとS.H.カウフマンが1952年に考えた「動的家族画法(KFD)」などがある。描画法の心理アセスメントの目的は、作成された絵を通して「被検者の人格構造・精神機能・発達状況・精神病理・心理力動・家族関係」をより良く理解することである。そして、心理アセスメントの結果の解釈を踏まえて、クライアントの可能性と利益を増進するような心理学的援助や特殊支援教育につなげていかなければならない。HTPテストは個別検査としても集団検査としても応用が可能であり、投影法としてのHTPテストは、MMPI(ミネソタ多面人格目録)やTAT(主題統覚検査)よりも深い人格構造や無意識内容を測定できると考えられている。 日本では、高橋雅春がHTPテストを改良したHTPPテスト(House-Tree-Person-Person Test)を考案しているが、HTPPテストでは「家→樹木→人物→その人物と反対の性別の人物」を順番に描くように被検者に教示を与える。HTPテストやHTPPテストの教示では「出来るだけ上手に家(木・人物)を描いてください。時間制限はありませんからゆっくりと描いてください」といった教示を与えることになっている。HTPテストは「言語化が困難な心的過程や内面世界」を絵画を通して非言語的に伝達させようとするものであり、「感情・欲求・葛藤を言語化するのが苦手なクライアント」や「無意識領域への抑圧や否認の防衛があるクライアント」に適した人格検査である。スイスの精神科医ヘルマン・ロールシャッハが開発したロールシャッハ・テストとHTPテストを比較すると、HTPテストはロールシャッハよりも曖昧な刺激を用いた「能動的な精神活動を必要とする心理テスト」だと言える。つまり、ロールシャッハ・テストの場合は検査者から提示された多義的な「インクブロット(インクのしみ)の図版」に対して反応をするだけだが、HTPテストの場合には「家・木・人物の絵を上手に描きなさい」という教示を元にその言語刺激を内的に構造化して能動的に描画作業に取り組んでいく必要があるのである。