STEM教育

出典: Jinkawiki

目次

STEM(ステム)教育

1990年代に米国で提唱された、Science(科学)、Technology(技術)、Engineering(工学)、Mathematics(数学)のそれぞれの単語の頭文字を取った理数系教育の総称。


アメリカで考えられるSTEM教育

アメリカ経済が今後も大きく成長していく中で重要な分野だと考えられている。科学と数学を土台として展開する科学技術人材育成を行おうというアメリカの戦略があり、社会に出る前の子どもたちが、将来そうした舞台でリーダーとして活躍することを目的としている。


アメリカでの教育方針

STEM教育はオバマ大統領が一般教書演説等で優先課題として取り上げたことが広まるきっかけとなったと言われている。4つの理数系の教育に力を入れることで、科学技術及びビジネス分野で国際競争力を発揮できると考えられている。世界における科学技術の優位性を保ちつつ、それを維持していくための国家的戦略といえる。その戦略の具体的な目標内容として5つのことが挙げられている。 1つ目は、2020年までに初等、中等教育の優れたSTEM分野の教師を10万人養成することである。併せて現在のSTEM教員も支援することが求められている。 2つ目は、初年次から高校卒業までの間でSTEM分野の経験を持つ若者を毎年50パーセント増加させることである。 3つ目は、大学生については、今後10年間でSTEM分野の卒業生を100万人増加させることである。 4つ目は、今後10年間で、これまであまりSTEMと関係していなかった層からSTEMに関する学位を取得する学生数を増加させることである。また女性の参加を促進する。 5つ目は、大学卒業生にSTEMの専門知識や応用研究を学ぶ訓練制度を提供することである。 これらの目標を達成させるために、年間30億ドルの予算が投じられている。


アメリカでの事例

アメリカにおいて理科教師教育の中心を担っている団体に全米科学教師連盟(National Science Teachers Association; NSTA)の活動事例から、NSTAは科学教育の改善・向上を目指した団体となっており、今日のSTEM教育の発展に向けて貢献してきたものとして、1996年に米国科学アカデミーが制作した全米科学教育スタンダードに続く、全米レベルの科学スタンダードである「次世代科学スタンダード“Next Generation Science Standards(NGSS)”」の開発が挙げられている。 また、他の団体機関との連携における推進活動としての報告も見られる。NSTAは狭い意味での科学教育に関与する団体に該当する。従来の教科教育関連の団体などには、他の学問分野や教育機関以外との連携を図り、STEM教育を推進しようという活動が見られる。そのうちの一つとして連邦政府や州の政策立案者に対し、競争力や経済発展にSTEM教育が重要な役割を担っていることを伝えることを使命とした団体の議長を努めるといった活動を行っている。


日本における事例-公的機関-

アメリカにおいて本格的に取り入れられているSTEM教育は、日本の教育分野でもその取り組みが少しずつ行われている。 文部科学省は学習指導要領の見直しや入試制度、センター試験の改革を進め、さらに全国合わせて200校以上の指定校があるスーパーサイエンスハイスクール(SSH)や国際科学技術コンテスト、科学の甲子園、グローバルサイエンスキャンパス(GSC)、次世代科学者育成プログラム、中高生の科学研究実践活動推進プログラムなどの取り組みも行っている。 実際にSTEM教育を研究している機関もわずかに存在する。そのうちの一つが埼玉大学のSTEM教育研究センターである。埼玉大学では2002年にSTEM教育研究センターを開設し、現在も活動を行っている。教育方法や指導者育成に関する研究の専門家を中心に、外部共同研究機関や大学周辺地域をはじめとする多くの教育現場と連携し、ロボットやレゴブロックなどを教材とした教育カリキュラム「SSCIP(スキップ)」の普及を行っている。ブロックを組み合わせて遊びながら子どもたちの表現力を高めたり、想像力を育成したりするような、楽しく学べるツールが増えてきている。


日本における事例-民間企業-

民間でもSTEM教育を行っている企業がある。ソニー・グローバルエデュケーションと学研ホールディングスは2015年にSTEM教育サービス事業の拡大に向けて業務提携を結び、STEM教育に関する教育プラットフォームやカリキュラム、プログラムなどを共同で事業開発するという試みを行おうという計画がある。 また、株式会社ロボット科学教育は、ロボット教材を用いたオリジナルカリキュラムで科学を楽しく学ぶ学習塾を全国的に展開しており、これまで小学校低学年向けに提供していたプログラムを全国の学童保育向けに映像で提供していくことを発表している。 レゴ社の「レゴマインドストーム」は、レゴブロックに加えて、モーターを備えたプログラムが組み込めるブロックやセンサー、ギアに車輪、といった部品を組み合わせて、ロボットなどを作ることのできるキット。アプリからプログラミングをして動きを制御するということも簡単にできる。 ソニー・グローバルエデュケーションは、創造力育成のためのロボット・プログラミング学習キット「KOOV(TM)」を発売している。 オンラインストアAmazon.comでは、STEM教育に関する知育玩具を毎月配送する、新しい定期購入プログラム「STEM Club(ステムクラブ)」を2017年1月24日に開始している。(2017年3月現在、アメリカ国内のみ。日本での展開未定) このほかにも複数の企業がこれまでのSTEM教育の事業を拡大したり、教育機関同士が提携をしたりなどしてさらなるSTEM教育の発展を行おうと取り組んでいる。


日本のSTEM教育の歴史

日本におけるSTEM教育をめぐっては、2017年10月に「日本STEM教育学会」(会長=新井健一・NPO法人教育テスト研究センター理事長)が発足した。東京・上野で初年度の研究会を開催した。新井会長は、元々のSTEM教育をバージョン1.0とすれば、芸術(Art)を加えた「STEAM(スティーム)教育」、さらにロボット工学(Robotics)を加えた「STREAM(ストリーム)教育」など様々なバリエーションを生んでいる現在を「STEM教育1.5」、それに続くAI時代を「STEM教育2.0」と位置付けた。 2020年度から順次実施される新学習指導要領では、小学校で算数や理科、総合的な学習の時間など、どこかでプログラミング教育を体験させること、高校で、理科と数学にまたがる選択科目「理数探究」を新設するとともに、情報は従来の2科目選択を共通必履修の「情報I」に改め、全員にプログラミングやネットワーク、データベースの仕組みを学ばせることといった改訂がされた。ただ今回の改訂では、小学校のプログラミング教育を実施する教科を限定しなかったことに見られるように、特別なSTEM教育の時間を設けたわけではない。新井会長は、STEM教育という幹(stem)をしっかり押さえたうえで、各教科の「ゆるい連携」によって、プロジェクト型で社会的課題の解決に取り組む学習を行いながらSTEMリテラシー(活用能力)を育て、大学やその後の職業に生かすことを提案した。


STEM教育の誤解

STEM教育というと、理工系に進む人にしか関係ないのではないかと思われがちだが、AI時代の到来によって、小学生が大人になるころには今ある職業の半分が入れ替わるという予測もある。文系・理系に限らず多くの仕事で、AIに使われるのではなく、AIを使いこなす能力が求められる。新井会長が参考として紹介したのが、欧州委員会の「生涯学習のためのキーコンピテンシー(主要能力)」である。母国語や外国語でのコミュニケーション、異文化理解と表現などの他、「数学と基礎的な科学と工学」「デジタルコンピテンシー」はもとより、「学び方の学び」も挙げている。これを日本の新学習指導要領が資質・能力(コンピテンシー)の三つ目の柱に掲げる「学びに向かう力・人間性等」に対応すると位置付けた。プログラミング教育も、プログラミング言語を書く「コーディング」を覚えるためではなく、それを通して論理的思考力を身に付けることを目指したものだ。


日本のSTEM教育の課題

人工知能(AI)やIoT(モノのインターネット)などの登場で「第4次産業革命」とも呼ばれる時代が到来するなか、これからの子どもたちにとって不可欠な教育といわれている。 文部科学省の活動は、理科教育・科学技術教育の充実を図ってはいるが、STEM教育を国家戦略と位置付けているアメリカを代表とする各国に比べるとそこまでの大きな活動とは言えない点がある。また、研究会で長洲南海男・筑波大学名誉教授は、日本の理科教育が「物・化・生・地に凝り固まっている」と問題点を指摘した。これからはSTEM教育の発想で、理数教育のイメージ自体を一変させる必要がある。


参考文献

・五十嵐悠紀(2017)『AI世代のデジタル教育 6歳までにきたえておきたい能力55』河出書房新社

・ベネッセ教育情報サイト「STEM教育って何? プログラミング・AI時代に注目!」 http://benesse.jp/kyouiku/201804/20180405-1.html

・Education Career 「STEM教育とは、科学・数学・技術領域に重点をおく注目される教育方針」 https://education-career.jp/magazine/data-report/2016/stem

・こどもまなび☆ラボ「世界のトレンドは『STEM教育』にあり! そのために親ができること。」 https://kodomo-manabi-labo.net/about-stem-education


ハンドル名:ar


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