フォルケホイスコーレ4
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2012年2月1日 (水) 11:16の版 Daijiten2009 (ノート | 投稿記録) ← 前の差分へ |
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==概要== | ==概要== | ||
- | フォルケホイスコーレ(Folkehoejskole)とは、語義的に表すと「民衆の大学」という意味になる。主に北欧諸国に広く設置されており、通常の教育機関から独立した私立学校である。デンマークの教育システムでは「成人教育」として位置づけられる。 | + | フォルケホイスコーレ(Folkehoejskole)とは、北欧全土で広範囲に設置されている成人教育機関で、公教育から独立した私立学校である。語義は「民衆の大学」といった意味になるが、私たち日本人が想像する総合的な大学よりも小さく、自治体、市民団体で行われている「カルチャーセンター」などを寄宿制にしたものといえる。当初は、義務教育を終えた人対象の高校教育の場として機能していたが、現在は大学教養や大人が教養を教養学ぶ場として機能している。 |
+ | フォルケ・ホイスコレは北欧の教育文化として、しっかりとした教育理念を裏打ちしているため、さまざまな影響力を持っている。2008年度現在で、フィンランド90校、スウェーデン160校、ノルウェー77校、デンマーク76校と北欧全体で400程度の設置がされている。 | ||
- | デンマークの首都コペンハーゲンの北部に位置するヘルシンオリにある「インターナショナル・ホイスコーレ」では、英語で学習する外国人に向けた取り組みが行われている(英語名はInternational People's College(IPC))。 | ||
- | 2008年12月時点での統計では、フィンランドに約90校、スウェーデンに160校、ノルウェーに77校、デンマークに76校が存在する。 | + | ==特徴== |
+ | 入学資格は17歳半から18歳以上であれば国籍を問わず誰でも学ぶことができる。しかし、授業はデンマーク語で行われ、世界各地から生徒が集まるため学校によっては高いレベルの英語力や現地語の能力が必要となる。入学試験や在学中の試験などはなく卒業によって得られる資格もない。また、寄宿制をとり、教師と学生が校内の宿舎で共同生活をするか学校の近くに住むことになっている。ホイスコレでは、共生が重視されている。食事やお茶など、互いにリラックスする時間を共有することにより、生きた言葉で対話することが可能となるため、打ち解けやすくなる。学費は、授業料、寄宿料、食費含む総額で、2009年度現在、1か月10万円~12万円が目安となっている。科目は、人文科学系、芸術、体育スポーツ、言語など様々な科目がある。さらに、科目以前に、授業や共同生活の中で社会階級や国籍を超えた交流し自己を見つめ再発見することで、もっとも自分らしい生き方に出会うことが一番の目的としてある。学習期間は、最大10カ月で3カ月、6か月といったものが多い。 | ||
+ | この学校は民衆の対抗教育ということで国家からの自由が一番の思想となっているが、学校出身者が政権を担当したことにより、経常費の約8割は行政から援助されている。しかし、学校の授業内容や運営は行政から独立して行っており、私立学校というスタンスを保っている。 | ||
- | ==特徴・システム== | + | ==目的== |
- | '''入学資格''' | + | フォルケホイスコレは1844年にデンマークの哲学者・詩人・宗教家のグルントヴィによって初めて創設された。元はデンマークの農民たちに国家への帰属心を育てるためにはじめられた。現在は進路決定前のものモラトリアム期間に自分の生きる道や職歴を得た社会人が断力を身につけ、自分の生きがいを築き、他者を気遣った自己実現の道を考えるということがこの学校の目的である。 |
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- | 人種等問わず誰でも入学できる。年齢基準は原則として17歳半以上(学校によっては18歳以上というところもある) | + | |
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- | '''入学試験''' | + | |
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- | なし。在学中においても試験という類いのものは基本的にはない。ただし、外国人の場合は学校によって英語力もしくは現地語の能力が求められる場合がある | + | |
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- | '''成績表''' | + | |
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- | なし | + | |
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- | '''修了証・卒業証書''' | + | |
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- | 原則的になし | + | |
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- | '''資格の取得''' | + | |
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- | なし | + | |
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- | '''生活スタイル''' | + | |
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- | 滞在中は他の生徒と共に過ごす。同じ敷地内で暮らす場合が多いが、ホテルのような設備があるところもある。特に3度の食事とお茶では会話やコミュニケーションが行われ、これが重要視されている | + | |
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- | '''学費''' | + | |
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- | 目安として1ヶ月10~12万円(授業料・寄宿費・食費(一日3食)・その他雑費を含める、09年6月現在) | + | |
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- | '''科目''' | + | |
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- | 大まかに分けると人文科学系、体育スポーツ系、芸術・デザイン系の3つ。それぞれに特化した内容となっている | + | |
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- | '''学習期間''' | + | |
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- | 原則、最大10ヶ月(12週、16週、20週、24週などのコースが存在する) | + | |
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- | 学習期間が比較的短いので、大学へ行く前からここに通い、自分のやりたいことを探すという人も多い。 | + | |
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- | またデンマークを例に取ると、代々この学校の出身者が政権を担当している傾向にあり、経常費の約8割を行政からの援助金でまかなっており、公立学校に近いものになっている。しかし、カリキュラムや人事などの学校運営に関しては行政は一切関知することができず、行政から独立した私立の学校という定義は守られている。 | + | |
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- | ==創始者・グルンドヴィ== | + | |
- | '''グルンドヴィの教育理念''' | + | |
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- | フォルケホイスコーレという大元の理念を確立したのは、デンマークの父と呼ばれるN.F.S.グルンドヴィである。 | + | |
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- | 彼は当時のデンマークの暗記を中心とした教育に不満を持ち、「相互作用」の理念を最重要概念とし、学生と教師、学生同士、そして過去と現在の人々の相互作用を創造するべく、フォルケホイスコーレが誕生したのである。現行のフォルケホイスコーレはそれぞれ独自のコンセプトを持って運営されてはいるが、根底にはグルンドヴィの概念が形成されているのである。 | + | |
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- | 以下はある著書での一部分である。 | + | |
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- | 「ホイスコーレに対する彼の理念はデンマーク民主主義社会をつくる基礎ともなりました。それまでの学校は、ラテン、フランス、ギリシャ、ドイツなどの外国語や外国文化が重視され、暗記教育が殆どでした。一部の上流階級の人たちだけが高等教育を受けられ、母国語しか話せない農民の文化は低いものとみなされていました。グルンドヴィはそれを強く批判し、抵抗しました。親から子へと代々伝えられてきた母国語と、そこからうまれてきた地域文化こそが尊く、美しいのだと訴えたのです。それは「生きた言葉」による対話と、競争でない共生からなる生活をもとめた教育理念でもありました。」 | + | |
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- | (中村秀峰:婦人の友2000年5月号「北欧のソング・ブック」) | + | |
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- | ==学習分野== | + | |
- | デンマークを中心にして考えると、それぞれの学校が特徴ある科目を用意している。ここでは大まかに3つの分野から説明していく。 | + | |
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- | '''人文科学系''' | + | |
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- | 哲学、文学、心理学、ジャーナリズムなど | + | |
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- | '''体育ポーツ系''' | + | |
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- | サッカー、体操、陸上競技、カヌー、ヨット、水泳など | + | |
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- | '''芸術・デザイン系''' | + | |
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- | 絵画、陶芸、アート、建築、テキスタルデザイン、グラフィックデザイン、映画、写真など | + | |
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- | 上記以外に一部の学校では外国人のためにデンマーク語やデンマークの社会、文化について学ぶコースがある。 | + | |
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- | その他の国を見ると、スウェーデンでは高等教育機関への進学を目指す人のためのカリキュラムも存在する(ただしスウェーデン人のみ対象ととなっている)。 | + | |
+ | ==日本のフォルケ・ホイスコレ== | ||
+ | 内村鑑三や賀川豊彦などがグルントヴィから大きな影響を受け、松前重義はデンマークのフォルケホイスコレにならって東海大学を設立した。日本で生まれたフォルケホイスコレは、大きく分け3つの流派があった。プロテスタント主流派の日本基督協会の牧師によるもので、農民組合や農業協同組合を作る大きな力となったが、次第に農民へのキリスト教伝道を中心に変質し、力をなくした。2つ目は、内村鑑三の弟子ら無教会派によるもので、山形の独立学園高校をはじめ、全国にこの流れを持つ全寮制の高校を残している。3つ目は、クリスチャンであった加藤完治らによって担われた皇道主義的農本主義によるものである。これは、全国に広がり、満州開拓時には数万人の青少年が送り出され、シベリア抑留の悲劇を生んだ。満州でもいくつかの国民高等学校が設置されたが、すべて敗戦と共に消えた。しかし、現在も全国で何校かは、農業専門学校というように形を変え存続している。 | ||
+ | さらに現在、フォルケホイスコレとして協会に属しているのは、3校ほどである。 | ||
==参考文献== | ==参考文献== | ||
- | 日本グルントヴィ協会 フォルケホイスコーレとは? http://www.asahi-net.or.jp/~pv8m-smz/home1.html | + | フォルケホイスコーレ入門 |
- | + | http://folkehojskole.jp/honmon.html | |
- | フォルケホイスコーレ入門 http://folkehojskole.jp/honmon.html#top | + | |
- | + | ||
- | グルントヴィの教育思想 http://www.asahi-net.or.jp/~pv8m-smz/archieve/ove_grundtvig1.html | + | |
- | + | ||
- | 中村秀峰 婦人の友2000年5月号 「北欧のソング・ブック」 | + | |
+ | フォルケホイスコーレ | ||
+ | http://www.asahi-net.or.jp/~pv8m-smz/society/hoeskole.html | ||
+ | 日本における農民学校(フォルケホイスコレ)の歴史 | ||
+ | http://www.phoenix-c.or.jp/~m-ecofar/167.html | ||
- | javelin | + | Fuka |
最新版
目次 |
概要
フォルケホイスコーレ(Folkehoejskole)とは、北欧全土で広範囲に設置されている成人教育機関で、公教育から独立した私立学校である。語義は「民衆の大学」といった意味になるが、私たち日本人が想像する総合的な大学よりも小さく、自治体、市民団体で行われている「カルチャーセンター」などを寄宿制にしたものといえる。当初は、義務教育を終えた人対象の高校教育の場として機能していたが、現在は大学教養や大人が教養を教養学ぶ場として機能している。 フォルケ・ホイスコレは北欧の教育文化として、しっかりとした教育理念を裏打ちしているため、さまざまな影響力を持っている。2008年度現在で、フィンランド90校、スウェーデン160校、ノルウェー77校、デンマーク76校と北欧全体で400程度の設置がされている。
特徴
入学資格は17歳半から18歳以上であれば国籍を問わず誰でも学ぶことができる。しかし、授業はデンマーク語で行われ、世界各地から生徒が集まるため学校によっては高いレベルの英語力や現地語の能力が必要となる。入学試験や在学中の試験などはなく卒業によって得られる資格もない。また、寄宿制をとり、教師と学生が校内の宿舎で共同生活をするか学校の近くに住むことになっている。ホイスコレでは、共生が重視されている。食事やお茶など、互いにリラックスする時間を共有することにより、生きた言葉で対話することが可能となるため、打ち解けやすくなる。学費は、授業料、寄宿料、食費含む総額で、2009年度現在、1か月10万円~12万円が目安となっている。科目は、人文科学系、芸術、体育スポーツ、言語など様々な科目がある。さらに、科目以前に、授業や共同生活の中で社会階級や国籍を超えた交流し自己を見つめ再発見することで、もっとも自分らしい生き方に出会うことが一番の目的としてある。学習期間は、最大10カ月で3カ月、6か月といったものが多い。 この学校は民衆の対抗教育ということで国家からの自由が一番の思想となっているが、学校出身者が政権を担当したことにより、経常費の約8割は行政から援助されている。しかし、学校の授業内容や運営は行政から独立して行っており、私立学校というスタンスを保っている。
目的
フォルケホイスコレは1844年にデンマークの哲学者・詩人・宗教家のグルントヴィによって初めて創設された。元はデンマークの農民たちに国家への帰属心を育てるためにはじめられた。現在は進路決定前のものモラトリアム期間に自分の生きる道や職歴を得た社会人が断力を身につけ、自分の生きがいを築き、他者を気遣った自己実現の道を考えるということがこの学校の目的である。
日本のフォルケ・ホイスコレ
内村鑑三や賀川豊彦などがグルントヴィから大きな影響を受け、松前重義はデンマークのフォルケホイスコレにならって東海大学を設立した。日本で生まれたフォルケホイスコレは、大きく分け3つの流派があった。プロテスタント主流派の日本基督協会の牧師によるもので、農民組合や農業協同組合を作る大きな力となったが、次第に農民へのキリスト教伝道を中心に変質し、力をなくした。2つ目は、内村鑑三の弟子ら無教会派によるもので、山形の独立学園高校をはじめ、全国にこの流れを持つ全寮制の高校を残している。3つ目は、クリスチャンであった加藤完治らによって担われた皇道主義的農本主義によるものである。これは、全国に広がり、満州開拓時には数万人の青少年が送り出され、シベリア抑留の悲劇を生んだ。満州でもいくつかの国民高等学校が設置されたが、すべて敗戦と共に消えた。しかし、現在も全国で何校かは、農業専門学校というように形を変え存続している。 さらに現在、フォルケホイスコレとして協会に属しているのは、3校ほどである。
参考文献
フォルケホイスコーレ入門 http://folkehojskole.jp/honmon.html
フォルケホイスコーレ http://www.asahi-net.or.jp/~pv8m-smz/society/hoeskole.html
日本における農民学校(フォルケホイスコレ)の歴史 http://www.phoenix-c.or.jp/~m-ecofar/167.html
Fuka