環境問題16
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===1.農業と環境問題=== | ===1.農業と環境問題=== | ||
- | 食料は人間の生命にとって不可欠である。だが、食料生産は環境と複雑な関係にあり、その基盤となる生態系の状態を補強する可能性もあれば、劣化させる可能性もある。つまり、農業はどこでどのように行われるのかによって、洪水防止に役立つこともあれば洪水を助長することもあり、魅力的な景観を提供することもあれば魅力的でない景観を提供することもある。雨水をろ過したり雨水の影響を和らげたりすることもあればそれを破壊することもある。さまざまな食料生産システムが環境に及ぼす影響はその場所に固有のものであり、その重大さは国によって異なるだけでなく、同じ国の中でも場所によって異なる。 | + | 食料は人間の生命にとって不可欠である。だが、食料生産は環境と複雑な関係にあり、その基盤となる生態系の状態を補強する可能性もあれば、劣化させる可能性もある。つまり、農業はどこでどのように行われるのかによって、洪水防止に役立つこともあれば洪水を助長することもあり、魅力的な景観を提供することもあれば魅力的でない景観を提供することもある。雨水をろ過したり雨水の影響を和らげたりすることもあればそれを破壊することもある。さまざまな食料生産システムが環境に及ぼす影響はその場所に固有のものであり、その重大さは国によって異なるだけでなく、同じ国の中でも場所によって異なる。 |
食料生産産業の性質が変化し、特定の農産物に対する需要が増すにつれて、環境への影響も大きく変化していく。たとえば、農業生産の集約化はエネルギー原単位を上げ、農業用化学品の利用に伴うリスクを増大させ、多くの地域で土地利用の転換を加速してきた。農業に対する高水準で継続的な援助と政府の貿易政策は、農業の投入物と生産物の相対的な価格を歪めつづけている。その反面、いくつかのOECD諸国では、ごく最近の規制と価格インセンティブにより、生産単位当たりの水、肥料および農薬の使用量が減っただけでなく、土壌、生息地および景観の価値を保護するための農法の導入が促進されている。 | 食料生産産業の性質が変化し、特定の農産物に対する需要が増すにつれて、環境への影響も大きく変化していく。たとえば、農業生産の集約化はエネルギー原単位を上げ、農業用化学品の利用に伴うリスクを増大させ、多くの地域で土地利用の転換を加速してきた。農業に対する高水準で継続的な援助と政府の貿易政策は、農業の投入物と生産物の相対的な価格を歪めつづけている。その反面、いくつかのOECD諸国では、ごく最近の規制と価格インセンティブにより、生産単位当たりの水、肥料および農薬の使用量が減っただけでなく、土壌、生息地および景観の価値を保護するための農法の導入が促進されている。 | ||
===2-1.環境に対する農業生産の影響=== | ===2-1.環境に対する農業生産の影響=== | ||
- | 農業は環境に対してプラスの影響もマイナスの影響も与えうる。従来の集約的な農法から有機農法に至るまで、あらゆる農法は現地レベルで持続可能なものになりうるが、実際にそうなるかは農業者が適切な技術と管理方法を採用するかにかかっている。環境の質に与える影響について現在得られている証拠は部分的で不完全だが、OECD諸国における農業開発の最近の動向、特に農業用化学品の大量使用とそのリスクの拡大、灌漑、大型で強力な農業機械の使用は、環境にマイナスの影響を与えてきたものとみられる。このような農法が、農業生産のエネルギー原単位増大、農薬と肥料による地下水と地表水の汚染、一部の地域における土壌侵食、化学的防除に対する病害虫の耐性増大をもたらしたのである。これらには迅速な取り組みが必要である。 | + | 農業は環境に対してプラスの影響もマイナスの影響も与えうる。従来の集約的な農法から有機農法に至るまで、あらゆる農法は現地レベルで持続可能なものになりうるが、実際にそうなるかは農業者が適切な技術と管理方法を採用するかにかかっている。環境の質に与える影響について現在得られている証拠は部分的で不完全だが、OECD諸国における農業開発の最近の動向、特に農業用化学品の大量使用とそのリスクの拡大、灌漑、大型で強力な農業機械の使用は、環境にマイナスの影響を与えてきたものとみられる。このような農法が、農業生産のエネルギー原単位増大、農薬と肥料による地下水と地表水の汚染、一部の地域における土壌侵食、化学的防除に対する病害虫の耐性増大をもたらしたのである。これらには迅速な取り組みが必要である。 |
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+ | ===2-2.大気の質と気候変動=== | ||
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+ | 農業部門からの大気汚染は、主に集約的な家畜生産とその結果生じる糞尿からのアンモニア発生に関係している。農業は酸性雨の発生源ではないが、大気によって運ばれるアンモニアは、何キロメートルも離れた風下の土壌を酸性化する可能性がある。農業からの大気汚染源には、崩れやすい土地から吹き飛ばされてきた表土がある。降下した表土は川や湖を汚染し、建物や機器に損害を与え、呼吸器系の問題を引き起こし、浄化費用を増大させる。 | ||
+ | 農業は地球の大気条件にも影響し、オゾン層破壊物質と温室効果ガスを排出してマイナスの影響を、農業土壌で炭素を吸収してプラスの影響を及ぼす。OECD諸国で排出されるメタンの約39%と亜酸化窒素のやく60%は農業生産によるものである。農業から排出されるメタンは主に反芻動物と糞尿処理から発生し、亜酸化窒素は主に窒素肥料から排出される。2020年までに農業関連のメタン排出量はOECD地域で現在の水準よりも約9%、世界水準としては22%以上も増えるものとみられる。過剰な施肥と家畜糞尿の排泄は、温室効果ガスである亜酸化窒素(N₂O)を発生させるとともに、水域の富栄養化につながる水路の硝酸汚染を招く可能性がある。上記のように、OECD地域の家畜生産から生じる窒素負荷は、2020年まで増加するものとみられる。しかしながら、農業はOECD諸国のCO₂総排出量の1%を占めるにすぎないとされており、農業部門からのCO₂排出量は2020年までに約15%減少すると見込まれている。 | ||
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+ | ===2-3.淡水の利用と汚染=== | ||
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+ | 農業はもっとも大量に水を利用している部門で、世界の淡水取水量の69%を使っている。近年国々では、価格インセンティブやインフラ改造や農業管理技術の改善が追い風となって、灌漑水の利用効率が大幅に改善された。そのため、OECD諸国の総灌漑面積は1980年以降16%増えたものの、その間に灌漑に使われた水量はほぼ安定を保ち、わずか4%増(世界全体では60%増)にとどまっている。だが依然として、持続可能な灌漑技術の導入は限られており、たとえば点滴灌漑が利用されているのは世界の灌漑面積の1%に満たない。その結果世界の農業用取水量のほぼ半分は、利用されるまでに至らず、効率の悪い水道管や灌漑設備を通る間に無くなってしまう。OECD地域の農業用水利用量は、今後20年間でさらに15%増えるとみられている。農業生産は、主に養分、農薬及び動物の排泄物の浸出、土壌の流出および堆積によって、水域を汚染する可能性がある。現在OECD諸国では、肥料の利用と家畜の排泄物による硝酸塩汚染が、おそらく地下水源にとってもっとも深刻な脅威となっている。OECD諸国におけるほとんどの農業地域では、高濃度の硝酸塩と農薬が検出されており、農業が特に集約的な場所では一様に水質基準を越えている。OECD諸国では、地表水に対する窒素排出量の平均40%、リン排出量の平均20%が農業によるものである。2020年までに、農業からの窒素と生物化学的酸素要求量(BOD)負荷による水質汚染は25%以上増加すると予測されている。OECD諸国の農薬使用量は見かけ上減少してきたが、集約的農業が行われている土地や流出水の影響を受けやすい地域、それに湿潤な地域では依然として水域が汚染され続けている。しかしそれよりも重大な問題は、地下水の農薬汚染である。もっとも広範に使われている農薬のいくつか(アトラジン、シマジン、アルジカーブ)は、通常の農業使用で土壌から浸出する力をもつ。総合的害虫管理戦略は、しだいにOECD諸国の農業生産者に採用されつつあり、これには、農薬の必要性と水源の農薬汚染リスクの両方を低減する可能性がある。 |
2016年7月26日 (火) 16:05の版
目次 |
さまざまな産業化での環境
1.農業と環境問題
食料は人間の生命にとって不可欠である。だが、食料生産は環境と複雑な関係にあり、その基盤となる生態系の状態を補強する可能性もあれば、劣化させる可能性もある。つまり、農業はどこでどのように行われるのかによって、洪水防止に役立つこともあれば洪水を助長することもあり、魅力的な景観を提供することもあれば魅力的でない景観を提供することもある。雨水をろ過したり雨水の影響を和らげたりすることもあればそれを破壊することもある。さまざまな食料生産システムが環境に及ぼす影響はその場所に固有のものであり、その重大さは国によって異なるだけでなく、同じ国の中でも場所によって異なる。
食料生産産業の性質が変化し、特定の農産物に対する需要が増すにつれて、環境への影響も大きく変化していく。たとえば、農業生産の集約化はエネルギー原単位を上げ、農業用化学品の利用に伴うリスクを増大させ、多くの地域で土地利用の転換を加速してきた。農業に対する高水準で継続的な援助と政府の貿易政策は、農業の投入物と生産物の相対的な価格を歪めつづけている。その反面、いくつかのOECD諸国では、ごく最近の規制と価格インセンティブにより、生産単位当たりの水、肥料および農薬の使用量が減っただけでなく、土壌、生息地および景観の価値を保護するための農法の導入が促進されている。
2-1.環境に対する農業生産の影響
農業は環境に対してプラスの影響もマイナスの影響も与えうる。従来の集約的な農法から有機農法に至るまで、あらゆる農法は現地レベルで持続可能なものになりうるが、実際にそうなるかは農業者が適切な技術と管理方法を採用するかにかかっている。環境の質に与える影響について現在得られている証拠は部分的で不完全だが、OECD諸国における農業開発の最近の動向、特に農業用化学品の大量使用とそのリスクの拡大、灌漑、大型で強力な農業機械の使用は、環境にマイナスの影響を与えてきたものとみられる。このような農法が、農業生産のエネルギー原単位増大、農薬と肥料による地下水と地表水の汚染、一部の地域における土壌侵食、化学的防除に対する病害虫の耐性増大をもたらしたのである。これらには迅速な取り組みが必要である。
2-2.大気の質と気候変動
農業部門からの大気汚染は、主に集約的な家畜生産とその結果生じる糞尿からのアンモニア発生に関係している。農業は酸性雨の発生源ではないが、大気によって運ばれるアンモニアは、何キロメートルも離れた風下の土壌を酸性化する可能性がある。農業からの大気汚染源には、崩れやすい土地から吹き飛ばされてきた表土がある。降下した表土は川や湖を汚染し、建物や機器に損害を与え、呼吸器系の問題を引き起こし、浄化費用を増大させる。
農業は地球の大気条件にも影響し、オゾン層破壊物質と温室効果ガスを排出してマイナスの影響を、農業土壌で炭素を吸収してプラスの影響を及ぼす。OECD諸国で排出されるメタンの約39%と亜酸化窒素のやく60%は農業生産によるものである。農業から排出されるメタンは主に反芻動物と糞尿処理から発生し、亜酸化窒素は主に窒素肥料から排出される。2020年までに農業関連のメタン排出量はOECD地域で現在の水準よりも約9%、世界水準としては22%以上も増えるものとみられる。過剰な施肥と家畜糞尿の排泄は、温室効果ガスである亜酸化窒素(N₂O)を発生させるとともに、水域の富栄養化につながる水路の硝酸汚染を招く可能性がある。上記のように、OECD地域の家畜生産から生じる窒素負荷は、2020年まで増加するものとみられる。しかしながら、農業はOECD諸国のCO₂総排出量の1%を占めるにすぎないとされており、農業部門からのCO₂排出量は2020年までに約15%減少すると見込まれている。
2-3.淡水の利用と汚染
農業はもっとも大量に水を利用している部門で、世界の淡水取水量の69%を使っている。近年国々では、価格インセンティブやインフラ改造や農業管理技術の改善が追い風となって、灌漑水の利用効率が大幅に改善された。そのため、OECD諸国の総灌漑面積は1980年以降16%増えたものの、その間に灌漑に使われた水量はほぼ安定を保ち、わずか4%増(世界全体では60%増)にとどまっている。だが依然として、持続可能な灌漑技術の導入は限られており、たとえば点滴灌漑が利用されているのは世界の灌漑面積の1%に満たない。その結果世界の農業用取水量のほぼ半分は、利用されるまでに至らず、効率の悪い水道管や灌漑設備を通る間に無くなってしまう。OECD地域の農業用水利用量は、今後20年間でさらに15%増えるとみられている。農業生産は、主に養分、農薬及び動物の排泄物の浸出、土壌の流出および堆積によって、水域を汚染する可能性がある。現在OECD諸国では、肥料の利用と家畜の排泄物による硝酸塩汚染が、おそらく地下水源にとってもっとも深刻な脅威となっている。OECD諸国におけるほとんどの農業地域では、高濃度の硝酸塩と農薬が検出されており、農業が特に集約的な場所では一様に水質基準を越えている。OECD諸国では、地表水に対する窒素排出量の平均40%、リン排出量の平均20%が農業によるものである。2020年までに、農業からの窒素と生物化学的酸素要求量(BOD)負荷による水質汚染は25%以上増加すると予測されている。OECD諸国の農薬使用量は見かけ上減少してきたが、集約的農業が行われている土地や流出水の影響を受けやすい地域、それに湿潤な地域では依然として水域が汚染され続けている。しかしそれよりも重大な問題は、地下水の農薬汚染である。もっとも広範に使われている農薬のいくつか(アトラジン、シマジン、アルジカーブ)は、通常の農業使用で土壌から浸出する力をもつ。総合的害虫管理戦略は、しだいにOECD諸国の農業生産者に採用されつつあり、これには、農薬の必要性と水源の農薬汚染リスクの両方を低減する可能性がある。