ゲシュタルト心理学
出典: Jinkawiki
概要
ウェルトハイマー(Wertheimer, M.1912,23)を創始者として1910年代にドイツで生まれ, ヴントに代表される「要素の総和から構成される心的現象」という 要素主義の考え方を否定した。成立の背景には エーレンフェルスによる ゲシュタルト性質の指摘, ルビンや カッツに代表される 実験現象学的研究等があ る。 ゲシュタルトとは形態や姿を意味する言葉であるが,ここでは,要素に還元できない,まとまりのある一つの全体がもつ構造特性を意味する。ウェルトハイマーはゲシュタルト性質の考えになお残されていた要素観は否定した。ゲシュタルトの考えを実証したのが驚き盤の観察に始まる 仮現運動の実験(1912),すなわち刺激要素と感覚要素の一対一対応の加算からは理解できない現象を示してみせた実験であり,それに協力したのが ケーラーと コフカであった。中心となった領域は 知覚,特に視知覚である。ウェルトハイマーは, 視野のなかで対象が分離し,それらがまとまって群をつくる 体制化の過程,および分離や 群化が簡潔・単純な方向に向かって起こるという プレグナンツの傾向が秩序ある知覚世界を成立せしめていることを図形例を用いて説いた(1923)。ゲシュタルトの概念は知覚のみならず, 記憶, 思考,要求と 行動,集団特性等,広く心的過程一般に適用された。ケーラー(K hler, W.1920)の心的現象と生理過程を対応させる 心理物理同型説の提唱,動物の 問題解決行動の研究,環境と人との相互作用としての行動,環境と人よりなる 生活空間を定義した レヴィンの要求と行動の 場理論,グループ・ダイナミックスの研究(Lewin, K.1935)等がその代表である。ゲシュタルト心理学の影響は種々の領域でみられ,現代心理学の源流の一つと見なされているが,今日その伝統を明確にみることができるのは現象的観察を重視する知覚研究であり,ベヌッシ(Benussi, V.),ムサッティ(Musatti, C. L.),メテリ(Metelli, F.),カニッツァと続くイタリアの視知覚研究はその例である。カニッツァ(Kanizsa, G.1979)は,ゲシュタルト心理学に対する九つの誤解,すなわち,(1)ゲシュタルト心理学は基本的には知覚心理学である,(2) 還元主義である,(3) 生得説である,(4)分析を拒否する,(5) 生気論である,(6)知覚における動機の要因の影響を否定する,(7)過去経験の影響を否定する,(8)規則性を対称性と等しいと見なしている,(9)問題解決が 洞察によると考える,をあげ,それらがいかに誤解であるかを説いている。そのなかで彼は,心理物理同型説にふれて,科学的な功績という点からゲシュタルト心理学を評価する場合,同型説が仮説であることを忘れてはならないこと,ゲシュタルト理論の原理は, 現象学的な領域において見出され,精緻化されたものであって,その領域において確証され棄却されるべきであること,したがって,ケーラーの仮説が誤りで,それゆえ,理論の原理が生理過程と物理過程とに直接適用できないことが示されたとしても,ゲシュタルト理論の原理は現象学的な領域において,科学的な価値を持ち続けることを述べている。
ゲシュタルト療法
パールズ(Perls, F. S.1969,73)が創始した心理療法の一種で,過去の体験や生育歴の探索ではなく,患者の「今・ここで」の体験と関係の全体性に重点をおく。個人でも集団でも適用されており,自己に責任をもつことを重視して,自発的な感情や自己への気づきを喚起しながら, 自己実現を促進することをめざしている。代表的な技法には,ロール・プレイング( 役割演技)や,座席を移りながら自己のさまざまな側面を演じて互いに対話を行う「ホット・シート」,怒りや恐怖の行動化,外傷的な出来事の追体験といったものがある。そこで治療者は,患者の表に現れた行為のほか, 非言語的コミュニケーションや呼吸の仕方,緊張の現れなどにも注意を向けて,患者にそれらを指摘し,その意味を尋ねる。パールズは,個人の欲求と体験との関係を 図と地という ゲシュタルト心理学の用語を用いて説明し,排除されていた自己の部分が統合されることで個人の ゲシュタルトが完成されるとした。