国際バカロレア
出典: Jinkawiki
国際バカロレア(仏:Baccalauréat International, 英: International Baccalaureate 通称:IB)とは、スイスの財団法人である国際バカロレア事務局(IBO)の定める教育課程を修了すると得られる大学入学資格である。フランスのバカロレアとは異なる。
国際バカロレアは、様々な国籍の生徒が就学する国際学校等の卒業生に国際的に認められる大学入学資格を与え、それぞれの国への大学進学の道筋を確保すると同時に、国際教育における先駆者として、能動的でバランス感覚あふれるリーダーの創出と、真の国際人の養成をうたう「全人教育」を目的として導入され現在に至る。
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国際バカロレアにいたるまで
20世紀後半から進む国際的人工流動化
20世紀後半から、経済・産業の分野で国際化が進み、外交官や国際機関、他国の企業や事業部で働く人々が目立つようになった。それに伴い自国から転校し、外国で受ける子どもも同時に増大するようになった。中には、外国滞在期間が何年にもわたるケースもあらわれ、滞在国の教育制度によって大学を受ける資格の必要性があったり、それを避けるために大学(大学教育)を受けるために自国に帰り準備するなど、大学教育を受けるのには多少困難であった。
その背景を受け、それぞれの国で大学機関に進学できるような資格制度の必要性が次第に高まっていった。
ISESの成立と国際バカロレアの実施
そこで、スイスのジュネーブ国際学校(1924年設立)がイギリスのGCE試験やフランスのバカロレアやアメリカのACT(大学進学統一試験)のための準備教育を開始するようになった。また、先の問題を解消するために、国際学校や多国籍校の教師の提唱で、UNESCOと「二十世紀財団」の資金援助を受け、1963年にISES(International Schools Examinations Syndicate 日:国際学校試験評議会)が組織された。ISESは、国際的に通用するカリキュラムによる課程の修了を証明する試験の実施に向けて検討をはじめ、1963年から69年までの準備期間(1968年にISESからIBOに改める)、1970年から76年までの実験期間を経て、1976年、国際バカロレアの実施に至らせた。やがて多くの国や大学によって、この国際バカロレア資格がそれぞれの大学入学資格と同等のものとして認定されるようになり、2007年現在、115カ国が加盟している(日本も含む)。
「全人教育」の目標
国際バカロレアは「全人教育」を目標としている。ここでいう全人教育とは、「この世界を豊かなものにしているさまざまな文化とその担い方を尊重し、人と人とを結び付けている普遍的な人間性を共有し意識する人間に生徒を育てるということ、つまり、地球市民としての自覚をもち、豊かな知識・優れた知識のあるバランスのとれた人間を育成する(田口,2007)」ことを目的とした教育である。国際バカロレアは、思考力・表現力に重点を置いた高い知的水準の達成、異文化に対する理解力と寛容性の育成、社会の一員としての自覚と責任感を養うことを目標としている。
国際バカロレアのしくみ~資格を得るまでのプロセス
2年間のカリキュラム
国際バカロレアの資格を得るためには、まず、IBOの定めるカリキュラムを2年間かけて以下の4つの項目をクリアしなければならない。
1.授業の履修
以下の6つの科目群から、各群より1科目ずつ計6科目を選択する。各科目の最低履修時間は、上級レベルで240校時(1校時:60分)、普通レベルで150校時である。
1群:語学A(第一言語)
2群:語学B(第二言語)※通常は外国語
3群:人間学(歴史学・地理学・経済学・哲学・心理学・社会人類学・組織論)
4群:実験科学(生物学・化学・応用化学・物理学・自然科学・実験心理学)
5群:数学(数学・数学および計算・数学研究・高等数学)
6群:選択 ①(美術・デザイン・音楽・ラテン語・古代ギリシア語・計算機)
②IBOが認定する各学校独自の科目
2.論文作成
1.で挙がったでカリキュラムから1科目選択し、教師の指導下で自由研究を行い、論文を提出する。
3.「知識の理論」の授業
多様な科目間の関係性を探究し、かつこれまで取得した知識や自己の体験を批判的に反省し 、認識力・思考力を養う授業である。最低100校時履修しなければならない。
4.「CAS」に従事する
「CAS」とは創造的活動、身体活動および奉仕活動を意味する特別教育活動のことである 。毎週半日程度の時間を学校が指定する活動に従事する。
国際バカロレア資格の受験
以上の2年間のカリキュラムをこなした後に、試験を受けて合格すれば国際バカロレアの資 格が与えられる。試験内容は2年にわたって正規に学習した6科目についてであり、試験形式 は筆記試験(論文形式・多肢選択など)や口述試験による。原則的に6科目のうち3~4科目 を上級レベルで、残りを普通レベルで受験する。使用言語は、3群から6群に限定して英語・ スペイン語・フランス語でなければならない。
日本での国際バカロレアの取り扱い
日本では、1979年から国際バカロレア資格を正式に高等学校卒業と同等以上の扱いとし て認めるようになった。その結果、国公立大学においては、帰国子女の特別選抜の対象として 、またいくつかに私立大学においては、入学資格ないし受験資格として取り扱うようになった 。
国際バカロレアを取り巻く問題
西欧偏向の問題
国際バカロレアの「全人教育」には意義のある制度であると期待は高いのだが、社会主義国や第3世界諸国とのかかわりが希薄であるという指摘がある。国際バカロレア資格で必須なカリキュラムは、語学・人間学のようなヨーロッパ中心的であるものが存在しているのは事実であり、教師の圧倒的多数が英米人で占められていることも事実である。
経費の問題
教育課程は各国によって異なっているだけでなく、国際バカロレアのカリキュラムが多様であるため、そのカリキュラムに合った学校施設・整備充実をするだけでなく、多くの教師を必要とする。そのため、国際バカロレアを各国で実施していくためには、多額の経費負担を余儀なくされる。
参考資料
田口雅子(2007)国際バカロレア―世界トップ教育への切符 松柏社
松崎巌監修 国際教育学事典 アルク
新教育学事典 第一法規